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「戦争問題研究会」講義ノート　1995年9月22日

　●クラウゼヴィッツにおける政治の意味。（テキストＰ．１５）

　戦争は何で起こる？戦争は政治から起こる（政治は戦争に優位する）。
　そうクラウゼヴィッツは定義する。
　その政治について、彼は「政治は国民の利害の管理人として対外的に存在するもの」と規定する。
　これは、政治を軽くとらえている（深刻に考えていない）ということであって、戦争のとらえ方が軽いか重いかに影響する。
　国内面、国外面の政治の問題から戦争が起こるからであって、政治のとらえ方の軽重が戦争のとらえ方の軽重に結びつくからである。
　（註：小林先生はクラウゼヴィッツが政治だけではなく、戦争も軽くとらえていたと考えている）

　政治のとらえ方は利害を重く（哲学的、神学的）とらえるか、軽く（民主主義、個人の意識）とらえるかということである。

　●戦争の定義。

　「政治の延長」としてとらえる時、価値としての政治の延長はクラウゼヴィッツ流であり、意味としては国家の自己主張である。
　あくまでも政治が戦争の上に位置する。戦争は政治の結果なのである。

　戦争を国家的自己主張貫徹の手段とする時の「自己主張」であるが、あえてこのような無色の言葉を使い、エゴ、権利、利害という言葉を語っていない。
　「権利！」などと言い立てるのはケンカの時のオモテ向きのタテマエである。
　本当の本音は別にある。政治の本音は絶対に表面に出てこないものなのである。
　フランスのシラク大統領の核実験遂行の理由も、もっともらしい「権利」などではないのだ。
　鼻持ちならない中華思想の表明があの強硬な態度なのである。
　諸外国に対して「舐めんなよ！」という気持ちもあると考えられる。
　そういった本音を含めて「自己主張」と定義するのでる。
　その中身については定義では問わない。

　政治の本音が表に出ない限り戦争はなくならないのである。

　日本の自己主張の一つとして、核の禁止がある。
　しかし「日本が唯一の被爆国だから」という主張はもう現在の世界には通じない。
　そんなものは対外的な理由にはなりはしない。過去の傷では外国も自国の受けた傷についての感情論レベルの応酬になり、禁止の論拠とはならないのである。
　今日の時点での「核は禁止！」を言うべきなのである。

　冷戦下での核反対は、その時点では始まりかねなかった戦争の開始を防ぐという理由で通用した。
　しかし今、戦争は起こっても核戦争は起こらない。
　だから「核戦争うんぬん」を口実の核反対は通じない。
　今日では「核」そのものの反対をせねばならない。
　そして「戦争反対」は「核」とは別にやるべきなのである。

　かってフセインに対して、アメリカが音頭をとり、世界中が彼をキチガイ扱いした。
　今シラク仏大統領に対してもクレイジー呼ばわりしてよいのである。しかし誰もしない。日本としては安保理事会に入るつもりでいるなら、それだけの発言をどんどんすべきのでさる。

　●大国とは。

　国際秩序とか世界平和などという言葉はウソである。
　大国には覇権主義（ヘゲモニー）がある。
　これまでは米／ソ対立の立場が突出し、他の国々はそのどちらかにつくことで、自国の安泰をはかった。ＮＡＴＯなどはこれであった。今その米／ソ対立の構図が消えた。
　そこで、改めて親分選びが始まったのである。
　覇権主義は大国主義とは違う。大国主義ではまわりの小国をバカにしている。
　ヘゲモニー主義とは、「仕切りたい」のである。
　フランスは冷戦時代にはＮＡＴＯの下で何となく親分気分のアメリカの下で面白くなかったのである。

　中国はソ連が威張っていた頃は覇権主義反対を唱えていたが、ソ連がいなくなったらこんどは自分自身が覇権主義を言いはじめた。

　政治はその国に住んでいる民の生命の安全を握っているのである。
　国民が国を大切にするのは、それが自分の生命の安全を守ってくれるからである。
　クラウゼビッツの言う「利害の総代表」程度のものではないのである。

　●ルーデンドルフの全体戦争論。（テキストＰ．１６）

　ルーデンドルフは第一次世界大戦のＨＬ同盟（ヒンデンブルグとルーデンドルフのコンビ）でロシアと戦った国民的英雄であった。その老将軍が唱えたのが全体戦争論（Algemeine Kniege）である。
　この説の問題点は以下の２つである。

　・戦争は大型化する。
　大型化の意味は、技術力、経済力、資源の分配、労働の全ての面についてである。
　これは当然のことである。
　しかし政治までがそれに従属すべきなのであろうか？

　・なぜこんな大型戦争をやらねばならないのか？

　戦争とは「国民の生存意思」の表現であると彼は説く。
　しかし本当にそうであろうか？
　戦争ではなく、国家こそが国民の生存意思の現れである。
　それをうまくやるのが政治であるべきである。
　この論理をルーデンドルフは飛び越えてしまったのである。
　国同士が取った取られたとやっているのは、国民の生存意思ではないのだ。

　更に「生存意思」の言葉自体が正しいものであるのか？という問題がある。
　この言葉のバックグラウンドにはダーウィンの進化論、ニーチェの意思論といった当時の進歩的西洋風の思想がある。
　この思想は正しいのか？
　進化論にしても、人間が動物と違うのは、動物は環境に適応するのみであるが、人間は環境に適応するだけでなく、環境を作り変えることが出来るということであるが、このことにまでは触れていない。
　人間もあくまで動物なみに環境に適応する存在であると、進化論は説く。
　こんな進化論ベースの社会思想を信頼できるのか？

　このように子細に検討してみると、ルーデンドルフの定義は大ウソと言わざるをえない。

　強いて言えば「戦争は国家の生存意思の最高の表現」となる。
　この場合の国家は国民とは関係がない。
　ルーデンドルフは国家を一つの生き物としてとらえようとした。
　そうなった場合の問題となるのは、戦争をふっかけられた時に国家を守るのか、国民を守るのかがあいまいになることである。
　（ここの事情は企業でも同じことが言える）
　テキストＰ．１７の旧日本陸軍のパンフレット「近代国防の本質と経済戦争」は日支事変の時に陸軍内部だけでならともかく、日本中に配られたものである。
　大マジメにルーデンドルフの全体戦争論を信じていたのである。
　ルーデンドルフの説に一番乗ってしまったのが永田鉄山、東条英樹、小畑敏四郎であり、国家総動員法はここから生まれたのである。
　国家が全体戦争体制となるのは、統制経済などして計画経済体制にしなければならなかったからである。

　●ルーデンドルフの誤りの原因。

　「様相が変わった」＝「本質が変わった」と考えてしまったことである。
　おっちこちょいな早とちりだったということである。
　彼は自分の説の根拠として第一次世界大戦での例をあげた。
　しかし、第一次世界大戦をよく見てみるとこれは「国民の生存意思」など関係のないものだったことが分かる。
　この戦争がセルビアの青年がオーストリアの皇太子を暗殺したことから始まったことが示すのは、オーストリアがセルビア等周辺国を属国扱いしたから、それに対する独立運動（ナショナリズム）という面があったかもしれない。
　またハプスグルブ帝国に対する反発だったかもしれない。
　この動きに協商国がからんで世界的な戦争になってしまった。
　また、この「協商」というものも、王室等同士のつながりであって、国民は関係がないことである。

　註：協商／国家間の親善関係を規定した条約そのもの、またはある条約から生ずる親善関係をさす。今日ではあまり使用されない。英仏協商、英露協商などが著名な例。

　●国の領土について。

　領土には２つの意味がある。
　固定した領土（ディスティンクト、テリトリー）としての意味と、あいまいな領土（エリア）としての意味である。
　エリアの例としては帝国（empire）がある。
　中世ヨーロッパでは国境がよく動いた。
　これは王族間の婚礼で持参金がわりに土地を持ってゆくので、王族の領土がその度に変わるからである。
　神聖ローマ帝国という大きなエリアの中でそれぞれの王国は封建領主であって、領土、領民は彼らの財産であったので自由に人にやったり売ったり出来た。
　この封建領主の中の一番のボスを決める権利がある者を選帝侯と呼んだ。
　しかし、国境が動き回るのはよくないということで、ナポレオン戦争後のウィーン会議でメッテルニッヒが国境の線引きをした。それ以降は地図の塗り分けが起こりにくくなった。
　ところが、その線引きが民族の集団に沿ってなされたものではなく、その区切りにおかまいなしに大国の思惑に沿って強引に引かれたものであったので、そんな国境は認められないと民俗紛争が始まることになったのである。

　日本の八紘一宇は「テリトリーもエリアも無限」という帝国意識の現れであった。

　アメリカ帝国主義はエリア主義（版図主義、IMPERIALIS）としてそう言うのである。
　エリアでなく本当のテリトリーなら「辺境」などはないはずである。

　現在のテリトリーに甘んじないなら、他国に侵入することになる。その際に武力を使わないこともある。
　帝国でいるためには、武力だけでない力が必要である。これが文明の力である。

　バルカンは民族としての境と宗教による境とがある。
　現在の紛争も内輪で争っていて外に出ることがないのならば、何十年でも内戦をほっておくのがよい。
　外部からおかしな干渉をして静めてもメッテルニッヒの線引きと同じことになる。

　註：選帝侯／選挙侯とも。神聖ローマ皇帝を選挙し，帝国の重要事項を討議する特権をもつ諸侯。13世紀の法典⇒ザクセン・シュピーゲルでは，教会諸侯3人(マインツ，ケルン，トリールの各大司教)と世俗諸侯3人(ライン宮中伯，ザクセン公，ブランデンブルク辺境伯)に限定。1290年後者にボヘミア王が加わる。1356年金印勅書で多数決原理に基づく7選帝侯制が確立。17世紀にバイエルン公，ブラウンシュワイク・ハノーバー公が加えられた。1806年以降形骸(ｹｲｶﾞｲ)化

　註：八紘一宇／大東亜共栄圏建設の理念として用いられた言葉。第2次近衛文麿内閣が決定した基本国策要綱の中の「八紘ヲ一宇トスル肇国ノ大精神」に由来。書紀の「八紘(ｱﾒﾉｼﾀ)を掩(ｵｵ)ひて宇(ｲｴ)にせむ」を全世界を一軒の家のような状態にすると解釈したもの。

　●ユーゴ内乱について。

　基本に大セルビア主義がある。
　大セルビア（かってバルカンをトルコから守った）の頃がよかった、あの頃に戻せという動きがある。
　セルビア人だけがバルカンを仕切る力を持つ、という反・版図主義である。
　反骨主義が盛んなのである。
　これには外からの秩序づけはムリである。
　解決の道としては、

　・内戦をやらせっぱなしにさせて疲れるのを待つ。
　・内側からまとめる人物の登場を待つ。

　以上が考えられる。
　それなのに、現在諸外国がこの地域にちょっかいを出すのは鉱業資源が欲しいので利権を守るためである。特にイギリスがここに入り込んでいる。
　そこで各国は自分の気に入ったところに武器を売っているのである。
　だからここに武器を売ることを一切止めれば争いは下火になるはずである。
　しかし各国は武器をここに売ることをやめない。

　カンボジアについても事情は同じである。
　シアヌークはロスチャイルド（仏）の手先であって、かつ中国のとう小平ともつながっていた。だから国王になれたのである。
　これまでも、何かまずくなっるたびに彼は仏や中国に逃げていた。

　更に親王時代のシアヌークを日本のマスコミは「殿下」と呼んでいた。
　ここには日本人の言語感覚の異常さがある。
　この言い方を始めたマスコミ（朝日）は言葉の使い方がおかしかったら是正するべきだった。（赤旗だけが「元首」と呼んでいた）

　ベトナムはアメリカの版図主義とソ連の版図主義のぶつかり合いであって、クラウゼヴィッツの言う全体戦争ではなかった。
　（もっともベトナム人民にとっては話は別である）
　セルビアは部分戦争と言える。

以上

文責　＆　HomePage 制作：（株）マネジメント・サイエンス研究所

コンサルタント　城　誠

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「戦争問題研究会」講義ノート 1995年9月22日

「戦争問題研究会」講義ノート　1995年9月22日