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「戦争問題研究会」講義ノート　1995年11月24日

　●映像とは？（雑談から）

　「映像」と言う言葉を使うときに、それは「写す」であるのか「映す」であるかを使い分ける。
　「写す」ではコピーである。
　映像表現と言う場合は「映す」のはずである。
　「映す」には３つの方向がある。

　・本質を引き出す：
　しかし、これは出来ることであろうか。
　報道写真家ロバート・キャパの写真にも演出が入っているほどである。
　そもそもファインダーでアングルを決めた瞬間に、それは演出となる。

　・感情を託す：
　リリシズムがこれであるが、いささかこの方向は古い。

　・イメージの世界：
　イメージにも、それが造形されたものと、凝縮されたものとがある。

　いずれにせよ映像表現には「やらせ」の要素はついて回るのだ。

　●国を守るのは本能か？

　本会メンバーのＴさんから、本日の研究会にも都合で出席できないとのことで、前回のＴさんからのFAX 質問（会の席上にて事務局が代理質問）への小林先生のお話に対するご質問が事務局の方にFAX にて届きました。
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　先生の言われる「今の日本という国に守りがいがあるのか」には深く考えさせられました。
　しかし、いくら腑甲斐ない国であっても、本能的に「守らざるを得ない」のではという気がします。
　守るに足る国にすることが、先決かも知れませんが、問題が広くなりすぎますか。
　又、議論させて下さい。
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　この質問を研究会の席上で小林先生に事務局が代理質問いたしました。
　（「国を」となると、これは人工物なので、それを守るのが本能的かどうかは怪しくなる。国という言葉の意味から始めねばならない）
　「本能的に守る」というが、「守る」ではなく「抵抗する」であるなら、これは生物ならどれもが備えていることである。
　生きていること自体が抵抗することであり、人間の動きは全て抵抗である。
　立っていることすら抵抗である
　ここまで考えれば本能的という言葉も意味がある。

　「抵抗する」とは“むざむざ殺されないぞ”という意思の表われであり、日本人にはこれがなくなっている。

　●沖縄問題で浮かび上がってきた「国際法」の意味。

　沖縄県知事は沖縄に米軍基地があるのは国際法違反であると言っている。
　外務省は米軍基地の存在は国際法違反ではないと言う。
　間に入った防衛庁は、どちらも正しいと言う。
　これは、双方の国際法に対する意味づけが違うのである。

　もともと国際法は文章があるわけではない。（明文化されていない）

　沖縄県知事の言う国際法は、国際的信義、良識、正義を意味する。
　沖縄での米軍基地の存在はこれに反している、ということである。

　外務省の見解での国際法は、「国家間の条約を遵守すること」を意味する。
　（条約の内容の是非は問うていない）
　日本は米国と安保条約を結んでいる。
　結んでいる以上はこれを守らねばならない。
　しかし、外務省は自分達の国際法に対する見解を国民には言っていない。
　言うべきことを言わないで隠しているのである。
　うっかり公式に表明すれば、安保条約そのものの見直しにまで問題が発展するからである。

　こういう国際法に対する見解の違いがあるので、このままではどちらの言い分が本当か分からないのである。

　●沖縄の米軍基地の軍事上の意義。

　敗戦後、沖縄は米軍に直接占領されていた。
　基地は米軍が地主を無理やり協力させて勝手に作った。
　米政府の権力で作らされたのが沖縄の米軍基地なのである。
　ここには日本政府は関わっていない。
　日本本土の米軍軍事基地は、米政府と日本政府とで契約し、日本政府が地主と交渉し、日本政府の権力で作ったものである。
　同じ在日米軍基地でもその意味が違うのである。

　沖縄の米軍基地には日本政府は関わっていないので、日本の首相が沖縄の地主の代理署名をしても実質的には何の効果もないのである。

　●日米安全保障条約（安保）の今日的意味。

　現状では安保を合理化する状況の方が大きくなってきて、廃止する理由がなくなってきた。
　その大きな原因は中国の状況が変わってきたことにある。

　かって中国は大陸内地に向けての塞防の方がメインだった。
　それが最近では海防に力を入れ始め、航空母艦まで作った。
　南沙群島という国境があいまいな地域で石油が出るようになった。
　本来はベトナム、フィリピンの領域と考えるべきであるが中国がゴリ押しをしている。
　対中国対策としてアメリカは安保のニーズを高めているのである。
　「米中の新しい冷戦」としてとらえるべき構造なのである。
　中国の核実験もこの構造の一環であると認識するべきなのである。

　日本も無関係ではない。
　南沙群島でトラブルがあったら、ここを通過する日本の海運が止まってしあうのである。
　（更に尖閣列島や竹島は本来日本の領土なのに台湾、韓国に占領されている。日本はこういう問題に対して腰が引けているのだ）

　この「米中の新しい冷戦」はかっての米ソ冷戦のようなイデオロギー対立ではない。
　経済的利害対立なのである。
　日本としても今では安保を廃止しにくくなっている。
　安保を廃止するのであれば1991年にソ連が潰れた時にやるべきだったが、現在ではタイミングを失したのである。
　（それに対してドイツのコール首相はソ連崩壊時にタイミングよくとっぱずした）

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　参考

　・日米安全保障条約（にちべいあんぜんほしょうじょうやく）

　対日平和条約に基づき独立後の非武装日本の安全保障のため米軍の日本駐留を定めた条約(1951調印、52発効)。日本は米国に駐留権を与えるが、駐留軍は日本防衛の義務を負わないという片務的形式をとり、米占領軍はそのまま日本に駐在することになった。在日米軍の施設・地位等に関しては⇒日米行政協定で定められた。その後この条約に基づく米国の要請下に日本は自衛隊の増強が進められた。1958年以後全国的な⇒安保反対運動の中で日米両国は条約改定を強行、60年新条約が成立した。新条約は、両国が自衛力の維持発展に努めること、日本および極東の平和と安全に対する脅威の生じた際には事前協議を行ない得ること、日本施政権下の領域におけるいずれか一方への武力攻撃に対しては共通に対処・行動することなど、双務条約的性格が強められた。また期限は10年と定められ、以後は一方が終了意思を通告すれば、その1年後に失効すると定められた。70年の期限切れに当たり政府は条約の引き続き堅持を声明、以来自動継続されているが、その後の国際情勢の変化で、単なる日米間の関係から、日本が米国の世界戦略に積極的にくみする関係へと質的変化を遂げた。すなわち、安保条約の重点が基地供与から共同防衛へと移り、米国は日本に財政的負担と極東の秩序維持における役割分担を求めてきた。

　・南沙群島（なんさぐんとう/ナンシャーチュンタオ）

　中国大陸南方海上、インドシナ半島とフィリピン諸島の間にあるサンゴ礁群。グアノ、熱帯果物、ウミガメなどを産する。1939年に日本とフランス間で帰属問題をめぐって紛争が起こり、第二次大戦直前日本が領有を主張し、新南群島となした。戦後、日本はその権利・請求権を放棄。現在、中国、ベトナム、フィリピンがそれぞれ領有を主張し、係争地となっている。

　・尖閣列島（せんかくれっとう）

　琉球列島のうち、西表(ｲﾘｵﾓﾃ)島の北方約160キロに点在する無人の小島群。いずれも第三紀層を貫いて噴出した火山島で、最大の魚釣島(4.3平方キロ)のほか黄尾(ｺｳﾋﾞ)礁、赤尾礁、南小島、北小島などがあり、沖縄県石垣市に属する。海鳥が生息、付近はカツオの好漁場。同列島周辺海域を含む大陸だなの海底資源開発をめぐり、中国は同列島の領有権を主張している。

　・竹島（たけしま）

　島根県隠岐諸島北西の日本海上、北緯37°9′、東経131°55′にある無人の岩礁。男島、女島のほか十数個の岩礁があり好漁場をなす。藩政時代朝鮮領の鬱陵(ｳﾙﾙﾝ)島を竹島、五十猛(ｲｿﾀｹ)島、竹島を松島と呼んだが、19世紀末英仏船の測量の誤りから呼称が混乱。1905年日本領とされ島根県隠地(ｵﾁ)郡(現隠岐郡)五箇村に所属。52年韓国が領土権を主張して「独島」の領土標を立て、現在まで日韓間で係争中。

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　●情報公開について。

　南沙群島の話などは日本では表に出てこない。
　中国とは経済で仲良くしたいという動きがメインであって、政治・軍事からは目をそらしているのである。
　それが日本の姿勢のいいかげんさなのである。

　国連が機能するものであるなら、南沙群島を初めとして尖閣列島や竹島の問題をそこに訴えることも出来たはずである。
　しかしアメリカはことごとく国連を無視してラチを開けようとする。
　南沙群島に国連の監視員を派遣するならばともかく、米軍が常駐しているのである。
　これが異常であると感じる感性が日本にない。

　ソ連がいたころならば、米軍が対ソ監視の為に日本に基地を置いていた理由があった。
　しかし南沙群島の件に関しては米軍がいる理由がない。
　南沙群島に関して日本が一番困るのがシーレーンの安定である。
　なんとしてでも、ここでトラブルを起されては困るのである。
　最良の手はベトナムかフィリピンが中国を国連に提訴することである。
　しかし中国とアメリカがこれをされることをいやがっているのである。
　軍事的に警戒している裏で、米中はこの地域の石油の利権で手を握っており、かなり金を流している。
　中国がこの海域を手に入れればアメリカも手を伸ばせる。
　そこで中国は海軍力をこの10年で5倍にしたのである。
　アメリカがフィリピンから基地を撤退したのは、フィリピンの国民感情を逆なでしないためである。（彼等に国連提訴されては困るからだ）

　これからは宗教、イデオロギー戦争はない。
　これからの戦争には必ず利権がからむのである。
　（十字軍も実は利権戦争であった）

　ＡＰＥＣはアメリカがストーリーを作ってアジア諸国に押し付けようとしている。
　あんなストーリーに乗ってしまってはいけない。
　アジア同士の同意でやることであるならば、台湾排斥問題なども起るはずがない。
　アメリカはＥＣからはみ出しているから太平洋の方で力を持ちたいのである。
　そこで環太平洋と称してアジアの方にちょっかいを出す。
　そもそも豪州や南米西岸までＡＰＥＣに加えては利害が一致するわけがない。
　むしろ環太平洋などと大風呂敷を広げるよりも、アジアだけで結束すべきである。
　しかし、それなら誰がこの結束を仕切るかというと、日本はアジアのアタマをとろうとしても、太平洋戦争の落とし前をアジア諸国に対してつけていない。
　これでは無理である。

　太平洋戦争の落とし前がついていないことに関しては、政治的にはともかく心情的には天皇の責任のあいまいさのせいである。
　ちょうどロシアがスターリンを否定しきれないようなものだ。悪いこともしたが結果論でソ連をある程度のところまで持っていったという評価である。
　スターリンはレーニンの思想を引き継いだということになっている。
　しかしスターリンの「悪いこと」に対してレーニンが言ったことだからと、彼に対する責任は問われていない。
　ただ、レーニンは正しかったということになっている。
　レーニンの言い方があいまいだったとの責任が問われていない。
　どういうことかと言うと、レーニンもさらにはマルクスも抽象的なことを言っていて、具対策は言わなかったのである。
　だからスターリンのやった具対策がレーニンに反していたとは問えないのである。

　天皇も具対策は言わなかった。
　それゆえ軍部が天皇の意思に沿ったのか、背いたのかを問えない。
　軍部は批判出来るが、天皇までは責任を問えないというロジックなのである。
　しかしこのロジックはおかしい。
　天皇は“私は知らない”とは言えないはずなのである。
　実行責任はなくとも、彼には政治責任があるからである。
　（企業犯罪で経営トップの“部下が勝手にやった、私は知らない”などの言動が通用しないのと同じである）

　ただ、太平洋戦争について日本が言える「いいわけ」が１つだけある。
　日本が植民地に熱意を持ち出した時期は、欧米が植民地をその維持コストで持て余し始めた時期である。だから、そんな頃に目立つことを始めた日本だけが非難される。
　本来なら欧米も同罪なのである。
　いわば「遅れてきた青年の悲劇」なのである。
　むろん、こんな「いいわけ」は実際には通りはしない。

　●「力」の理論とは。

　日本は「力」を肯定した理論を持たない。
　国というものは固定と流動の間を動いている。
　戦争し合って、やった者勝ちや、双方やり疲れたところでの国境が固まるのである。
　本当に固まったかどうかは別である。
　しばらくすると、また戦争し始め、国境は流動的になる。

　企業の活動も、大半のものは規制のもとに仕方なしにおとなしくしているのである。
　こんなのは固定ではない。
　規制がはずれると流動し始め、やった者勝ちの世界になる。
　そういう戦国時代状態になった時に、「やった者勝ち」路線で積極的に動いてうまくゆくところもあれば、ヘタな動き方をして潰れるところもある。
　またあえて動かない路線を守ってうまく自分の領土を守りとおしたところもあれば、守り方がまずくて潰れたところもある。
　実際の日本の戦国時代にも同じ事例がある。

「やった者勝ち」路線

　自由化時代、経済は「やった者勝ち」となる。
　しかし、経済ではなく政治はそれだけではいけない。
　国際政治は「やった者勝ち」はいけないということになっている。
　途上国はまだ固まっていないからという根拠からである。
　日本もかっては「やった者勝ち」を目指したが戦争に負けたので、その路線はコケた。
　現在、中国が暴れているのはかっての冷戦時代はソ連の存在が規制となっていて、その規制が外れたからである。

以上

文責　＆　HomePage 制作：（株）マネジメント・サイエンス研究所

コンサルタント　城　誠

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「戦争問題研究会」講義ノート 1995年11月24日

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