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「20世紀研究会」講義ノート　1996年9月27日

　●現在の天皇の存在については憲法自体が矛盾している。

　天皇が国事行為を行うというが、国事行為とは政治のことであるはずである。
　また、戦争と天皇との関わりでは、宣戦布告は誰の名においておこなうという問題がある。これが出来るのは元首だけの筈である。交戦権は元首の持つ権限であるが、そうなると日本の国の元首は誰か？という問題が浮上する。これにサインする人間は首相のことではない。天皇か、さもなければ大統領でなければならない。
　交戦権ではなく単なる軍事権であるなら、これは首相の指令で出来る。軍事活動（オペレーション）は、単に自衛隊を動かすだけの意味しかないからだ。

　ちなみに、総理大臣と首相とは違う。
　総理大臣とは「総理府の大臣」という意味でゼネラル・マネージャーである。要するに会社で言えば総務部長が仕切っているだけのことである
　要するに会社で言えば総務部長が仕切っているだけのことである。
　対して首相は、あくまでプライム・ミニスター（第一大臣）なのである。

　●ノモンハン事件に見る国境防衛のむずかしさ。（テキスト74ページ）

　日本の問題点は国境（テリトリー）を無視することである。たとえ相手が敵国であろうがテリトリーは尊重せねばならない。これを日本は意識すらしていなかったのである。

　「域はイキなり」と「イキおい」のいいものがテリトリーを決める原則がある。

　政治的には国境（テリトリー）は放っとくとヤバいので、線引きをする。
　行政的（ディスクリフト）にはいいかげんであって、関東と中部を一緒にしてメガロポリスと呼んで一緒に扱ったりする。川崎市（神奈川県）も東京都扱いしてしまう。
　商売、ヤクザの「域はイキ」の習慣をだらしなく持ち込んでいるのである。

　イギリスではそこのところのけじめがしっかりしている。
　王族はロンドン市の中の許可を得てバッキンガムに住まわせてもらっている。彼らが市から外に出るときにはいいが、帰ってくる時には市の許可を得て（形式的ではあるものの）市のカギをもらうことになっている。
　しかし、日本では天皇が東京都から外出して戻って来たときに、都知事の許可を得るなどということがない。それを変だとは、誰も思わない。日本のテリトリーに関する問題点は、この姿勢が一事が万事であることなのだ。

　イギリスの場合、王族の権利を制限した大憲章（マグナカルタ。1215年6月）は、もともとはゼニの問題から生まれた。それまでのジョン王が取り立てた税金を勝手に使っていた。それをチェックするために封建貴族と地主が作ったのが英国議会である。
　もともとが庶民の為の議会なのではなく、王室のためのコンサルタント・グループ、もしくは監視人、監査役会なのである。
　上院はMy Parliament（自分の国会）と「王室のもの」として扱われる。だから、上院は選挙もしない。この議会によって王族の王権は認められ、王族は議会に遠慮するというかたちが出来上がった。その後、庶民の為に出来たのが下院である。

　銀行(Bank)の語源は、ユダヤ人金貸しはロンドン市内では営業を許されず、テームズ川べりの土手(Bank)に沿って屋台を開いたのである。日本で言えば岡場所（吉原等）である。まっとうな商売視されていなかったということである。
　今でも銀行名にバンクを名前に付けるのはユダヤ系である。

　●テリトリー無視の人間性が日本人の特徴。

　元々どっちとも言えない国境はある。川とか山脈などはっきりした境目があるところはともかく、砂漠や密林では境目がはっきりさせにくいし、砂漠では地形そのものすら変わる。また、誰も住んでいなければ緯度・経度を境に決めてしまえるのである。（アメリカ合衆国の州境やアフリカ諸国の国境など）

　しかし、人間がくらしていると話は変わる。
　入り組んだ境目は、そこに住んでいた住民の所有利害と結びついているからだ。

　百姓の田んぼのアゼは次第に変わってゆく。イキのいい百姓が毎日少しずつ隣の田んぼへとアゼをじわじわと侵してゆくのである。別に取るつもりではないのであるが、イキオイでそうなってしまうのである。そして数年経つと田んぼの形が変わってしまう。それで時々仕切り直しをするのであるが、またじわじわと変わって行ってしまうのだ。
　企業でも、仕事の上の職務分掌は働いているところがどんどん取ってゆくのだ。
　「域はイキなり」の原則が働いているのである。

　近代的な国境が出来たのは第一次世界大戦の頃である。
　国境の中ではっきりと線引きされているものをテリトリーという。
　国境がのらりくらりしているものをエリア（版図）という。このエリアでじわじわ回りに広がってゆくのが、帝国主義である。
　かってのローマがまさしくこの形での帝国であった。（ただし、神聖ローマ帝国の方は、名前のみ引き継ぎ各地の王族が詐称しているだけであって、これとは違う）
　現在のアメリカが徹底的な版図主義（帝国主義）であって、日本などとうに属国として扱われていると考えられる。ソ連もそこのところは同じであった。
　満州は外蒙古との国境であると同時に、外蒙古自体がソ連の版図扱いだったので、ノモンハンは「満州　対　外蒙古」だけでなく「満州　対　ソ連」との国境問題でもあったのである。その相手であるソ連の動きについて関東軍は鈍感であった。

　●満ソ国境紛争処理要綱。（テキスト78ページ）

　この要項の問題点は大きく２つある。

　・方針自体が政治的ではなく軍事的であった。
　・守備なのだから、紛争は出来るだけ穏便な形で抑える方向であるべきなのに、やり方自体が勇ましく叩き伏せる方向であった。

　この要項は外務省が作ったのではなく、軍が勝手に作ったからこうなったのだ。
　しかし、より根本的な問題は、いやしくも高レベルの政治問題であるこの国境政策に対して、当時の政府が何も言わなかったこと、及び天皇も何も言わなかったことである。

　「国境を守備隊長が決める」に至ってはバカとしか言いようがない。未開の部族争いならともかく、およそ近代国家のやることではない。こっちは相手の領土に入っていってもよいが、後でバレないようにしろなど、アマチュアが作った戦争ごっこのシナリオである。これを関東軍参謀が作ったのである。頭の悪さ丸出しと言えよう。

　さらに、この要綱には日本人の作るマニュアルの特徴が表れているのである。
　「○○○すると共に、万一●●●の時は★★★せよ」
　という表現があるが、力点は後半にあり、前半は建前にしか過ぎない。
　そして、前半と後半では明らかに矛盾しているのである。
　「営業の拡大をはかると共に、利益の確保をはかれ」
　などと平気で矛盾したことを言い、実際の解釈＆行動は部下に下駄を預けるのである。

　文章だけでなく単語レベルでもこの特徴は表れる。
　悪いことをして、それがバレ、今後のことを言う際に「進退を考える」と言う。
　悪いことをしておいて「進む」もないはずである。
　「緩急」という言い方があるが、そういう状況では急ぐに決まっている。
　「従業員賞罰規定」というが賞は関係がない。本音は「従業員処罰規定」なのだ。

　要するに言葉の「あや」で飾り文句を付けるのである。
　チャーチルは戦時中ここに目をつけた。「日本の命令というものはここに弱点があるので、軍は混乱するはずである」と分析したのである。
　それは事実となった。
　「ミッドウェイを攻略すると共に、撃滅する」と命令が下った。
　最初は撃滅する方がメインだった。しかし後から、どうせ攻めるなら取ってしまえと攻略の方に重点が移ってしまった。
　撃滅するだけなら、爆撃して壊してしまえばいい。しかし攻略するとなると、上陸して占拠しなければならないのである。全然、準備段階からして違うし、タイミングも重要になる。言葉の「あや」でも、行動は大違いになるのである。

　なぜそうなるかと言うと、相手（対象）のことが分かっていないので、あれもこれもとやりたいことを盛り込んでしまうからである。
　相手を無視しているからこそ、こんなバカが通るってしまったのだ。
　とりあえず「これ」にしぼろう！というストラテジーがないのである。

　あいまいな希望の言葉は現在も耳触りよく使われている。
　「２１世紀に向けて」という言葉は、２０世紀にいいことがなかったので、次の時代にバラ色のイメージを持つ、というものである。
　（しかし、小林先生の見るところ、２１世紀には日本国はアメリカの属国化して消えてなくなり、企業は多量に倒産するであろうとのことです）
　だから、選挙などで「２１世紀に向けて」を売り物にしているものはウソと考えるべきなのだ。

　政党・政治家というものは支持したり、信頼はしてはダメなのである。
　支持する・信頼するとは、信じてやりたいことをやらせる「おまかせ」であって、徹底して心情主義なのである。つまり白紙委任状ということだ。
　政治家は支持されているからと言って、何をやってもいいものではない。
　そうではなく、選挙民は政治家が「やること」に対して賛成・不賛成することが正しい態度である。具体的な政策に対して、どうするか？が問題なのである。
　原発、沖縄での国民投票は「やること」に対して賛成か反対かを問うている。
　これこそが本来の政治の姿なのだ。
　古代ローマの元老院は、賛成ということで選ばれていた。賛成する者がいなくなったら、不賛成と言い、ボイコットという形をとるのである。

　世論とは「つくられた」意見である。朝日ＴＶが乗っ取られたのもこれが目的であり、その真意はアメリカの謀略活動である。久米宏がクビになったのも、アメリカから目障りだったからである。
　これに対して、輿論とは「国民の声」であって、自然に出て来るものである。

　アメリカの日本に対する謀略活動は、ストラテジーに基づいた大路掛けなものであり、６０年安保の時には、反米の闘士だった骨のある若い連中をフルブライトの留学生として呼び寄せ、アメリカのシンパに仕立て上げ、彼らをして第二のゾルゲをやらせることを企んだのである。その連中が今、日本の言論界を仕切っているのだ。
　こういった「つくられた」世論につぶされないためには、輿論の方では反対する前に代案(alternative)を出さねばならない。
　Alternative を会議でも生活でもどんどん出すのが、アメリカ人のやり方であり、彼らの強みである。
　しかし、代案を出すためには徹底的に情報を公開しないと、つくるための材料が足りない。その情報は日本では全て官僚によって抑えられているのだ。
　情報公開法もその中に「支障のない限り公開する」という一文を官僚が入れさせてしまったので、無意味なものになってしまった。

　現在のアメリカの謀略は対中国を考えている。しかし、それを表には出さない。アメリカがいろいろ日本やアジア諸国に言ってきたり要求したりしている底に、それがあることを考えておかねばならない。

　●小林先生がおこなった代案つくり。

　戦後の、吹田事件の際、「共産主義者を抑えろ」というマッカーサーの指示に従って、暴れた共産主義者達を警察に捕まえさせた。暴れた者を捕まえたこと自体はいいとして、その元々の原因として共産主義者を抑える指示をした根拠は何かのところがスッポリ抜けていた。それを聞くためにマッカーサー本人を証人として呼べと、小林先生は代案を論じたのであるが、やっても出来ないと、はじめから諦められて聞かれることがなかった。仮にマッカーサーを呼ぶことが出来なくとも、また呼んでも根拠は聞かれなくとも、日本の司法当局は呼びつける姿勢を持つべきであったのだ。
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　吹田事件
　　1952年6月24日夜，豊中市の大阪大学北校で｢朝鮮戦争2周年記念前夜祭｣が行なわれ，終了後労働者・学生・朝鮮人など約900名がデモ行進し朝鮮戦争と米軍の軍事物資輸送に反対して国鉄吹田操車場に侵入した事件。111人が起訴され全被告が騒乱罪と威力業務妨害罪に問われたが，11年間の審理の後，63年の一審判決では騒乱罪，威力業務妨害罪はともに不成立とし15人を暴力・傷害罪で有罪とした。しかし68年の二審では騒乱罪は認めないが，威力業務妨害罪は成立するとして46人が有罪となった。72年，4被告の上告を最高裁が棄却して終了。
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　「北方領土は日本の領土であるから返せ」と、まず共産党自身がソ連に言うべきであると、小林先生は日本共産党に対してAlternative を論じたが、これも聞き流された。

　石炭から石油への切り換えで国内の炭鉱その他関連産業に大混乱が起こった。これもアメリカの石油資本の謀略であった。謀略に対抗するためには、その時に日本国民の一人一人に石炭がなくなっていいか？を聞き取り調査すべきだったのである。

　代案がないから人マネをせざるを得ない。
　代案研究会、洞察研究会をこそ、小林先生は作りたかった。
　この戦争問題研究会の場を「代案研究会」したい程である。

　註：主催者（城誠）としては、全く異存のないところです。会員の方々の異論がないようでしたら、次回から大いに代案研究会の要素を強めてゆきたく考えております。
　いかがでしょうか？

　代案による具体的な論議を進めてゆくと、いずれは国家の問題に突き当たる。
　（この研究会の正式名称は元々が国家・民族・戦争問題研究会です。本来的に扱うべきテーマです）
　そこまで考えた時に、そうまでして日本は守らねばならないところであるのか？という問題に突き当たる。そうなった場合に「どんなことになっても、南北朝鮮のようになったらいかん」、「アメリカと摩擦を起こしてはいかん」という、これまでのパラダイが、それでいいのか？と変わってくる。

　●マクロな見方について。

　マクロが言えるのは経済世界のみである。
　社会、政治、文学、芸術の世界ではマクロはありあえない。真剣になって考えれば考えるほどバラバラになるのが本当のものである。
　マクロがあるということは、ミクロを統合する共通の物差しがあるというになる。
　これが言えるのは経済の分野だけであるのだ。しかし「経済の物差し」というもの自体がインチキかもしれないのである。なぜならば、この物差しを決めたのは既存の経済学だったからである。

　実際に物差しは崩れはじめている。
　経済の分野でも、その中に南北問題と環境問題が出ると、マクロ経済はガタガタになるのである。マクロ経済の理論では合っている「ポナペ島モデル」についても、それでいいのか？という視点が発生する。

　かつマクロ自体も、理論のマクロからアメリカの力のマクロに変わっていっている。
　日本がアメリカの力のマクロに負けかけているのは、日本に力がないせいである。
　力がないから日本は絶対に負けることになる。

　●乱世について。

　ミクロ・ベースの規制緩和による乱世がまずある。これは「やったもの勝ち」の大歓迎の世界である。
　しかし、マクロの崩壊による乱世がこの上に重なっているのである。それは、これまでもたれてきたマクロが分からなくなるからである。
　（景気がどうなるかに頼っていたところは、元気がなくなる）
　しかしユダヤ人や科挙は、こんなものにはハナから頼っていない。アメリカ人もマクロを無視する。彼らはマクロのかわりに力を持つ。

　アメリカ人はこれまでspace に目を向けていた。Space は本来マクロである。
　そして今、冷戦構造が終わりアメリカ人はspace からglobal に目が戻ってきた。
　ＣＴＩ（復員技術）：アメリカを地球の王者にするプロジェクトもこれである。
　世界の留学生をアメリカの研究機関に通わせ、技術だけでなくアメリカのシンパを世界中に作っているのである。

　これだけのストラテジーをアメリカが進めている以上、日本という所帯がいることを積極的に訴えていかないと飲み込まれてしまう。
　「ここにおるぞぉ！」と主張したいのだ。日本という国を守る根性である。

　人間は他人を支配したく、支配されたくない業を持つので、争いが起こるのが当たり前であるが、国と国との間でもこれが起こるのである。
　だからこそ障壁があり、国と国との枠組みがないとまずい。
　ただし、この争いがあったからこそ技術・科学も発達してきた、国と国との付き合いの知恵も生まれてきたと言える。
　人間は争いで生きている。争う動物である。争いがいき過ぎると殺し合いになる。それを程々にリードするのが知恵なのである。国際連合もその知恵の為のものである。

　ホッブスの説いた「人間は他人に対して狼である」の言葉は、人間には争いをリードする力がないと言っているに等しい。
　しかし、小林先生はそうは思わない。
　争いをリードすることを最初に枠組みしたのはギリシャ人であった。ゲーム化された争いの場を作ったのである。これをアゴンと言う。古代ギリシア都市国家の中心街にあった広場アゴラとは商売、政治、経済の「ゲーム化された争い」の場であったのだ。

　人間には争いをリードする知恵があるのである。

以上

文責　＆　HomePage 制作：（株）マネジメント・サイエンス研究所

コンサルタント　城　誠

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「20世紀研究会」講義ノート 1996年9月27日

「20世紀研究会」講義ノート　1996年9月27日